ICEYクラシックス Vol.3

ICEYクラシックス

ICELANTICライダーの過去の功績を紹介していくコーナー、ICEYクラシックス。
第三回はクリフジャンプの世界記録を持ちながら、アパレルブランドの創業者・トレイルランニングイベントのオーガナイザーとしての顔も持つJulian Carr(ジュリアン・カー)

Julian Carr

まずは彼の持つ世界記録の映像を見ていただきたい。ジュリアンはキャリアの中で、自殺行為としか思えないような高さのジャンプの数々を成功させてきた。

“I don’t obey my fear; I obey the facts. And usually the facts are that it’s a feat that is achievable. I focus on nothing but that. And slowly, that fear becomes confidence in form of awareness.”
(私は恐怖心に従うのではなく、事実に従う。そしてたいていの場合、それは達成可能な芸当だということです。私はそれ以外のことは何も考えていません。 そしてゆっくりと、その恐怖は意識の中で自信になっていくのです。)
IMPACTER Interviewより https://impakter.com/pushing-peaks-with-julian-carr/

崖から飛び降りる。その単純な行為の中に光る個性。

スキーのクリフジャンプにもそれぞれのスタイルがある。普通にジャンプ台を飛ぶように足から着地して、そのまま滑っていくのが基本。だが高さが15mを超えてくると、色々な問題が出てくる。

崖から自由落下し、パウダースノーにランディングすれば大きなクレーターができる[1]。パウダーランディングでは雪に足が取られて板が外れたり、前につんのめって止まってしまったり、とても圧雪斜面のようにはいかない。そのため、後傾になり完全に背中がついてしまっても、そのまま滑り出すことができればメイクとして映像にも使われる。また、場所によってランディングの斜度や長さも大きく異なる。急な斜度であればなおさら、風で密な雪になっていることが多いだろう。何年に1回かの大嵐の後にしかコンディションの整わない崖は、現地のローカルと連絡を取り合い虎視眈々と狙っていなければならない。

[1] 英語圏では俗称“BOMB HOLE”(ボムホール)という。またランディングで足が取られ、人形が飛ばされるように回転して激しくクラッシュすることをトマホークと呼ぶ。

別のライダーによるクリフジャンプの別の世界記録。ジャンプによる怪我はなかったようですが、完全に埋没してしまい、仲間に掘り返してもらわなければならなかった。 生きて帰ってくればメイク?これではただの自殺行為?みなさんはどう思いますか?

足からランディングするスタイルならセス・モリソンや佐々木 悠が有名だ。より高さを追求した結果、スキーxパラシュートでベースジャンプするスタイルに進み、悲劇的な最期を迎えたシェーン・マッコンキー[2]。

そして同じく高さを追求し、フロントフリップで攻めるジュリアンだ。

[2] カービングスキーと並ぶスキー革命を起こしたロッカーテクノロジーの第一人者。2009年3月、クリフジャンプ撮影中の事故で他界。

フロントフリップは高飛び込みのように制御できると語るジュリアン

フロントフリップの利点は飛型が安定する上、ランディングを見て回転を調整できる。パウダーで急斜面となると踏み切りがやりづらい。上記の255ftクリフジャンプのようにグラブできるほどうまく踏み切れたとしても、飛型を安定させるのは高さが増すほど難しくなる。このレベルでは着地で板が外れるだけでなく折れる可能性や、足の各関節への衝撃、膝が顎に入るなどのリスクも考慮しなければならない。当然、足や背中から落ちなければ本当に死ぬ可能性も高まる。

足から着地して背中がついてもメイクならば、初めから背中でいけばメイク率も上がる。しかしそれでもなお、足から着地を狙うのが王道と考える方もいるだろう。だが明文化されたルールがある訳ではない。

スタイルとはそれぞれの美学と信念。より高さを追求するならば、これはクレバーな戦略だ。

そう、ただの勢いだけでこんな真似はできない。多くのインタビューの中で一貫して、「クリフを飛ぶ前は何時間も、時には何日もかけて恐怖と向き合い、心を整えていくことで実際にそれができると確信する。」と語るジュリアン。行き過ぎたアドレナリンジャンキーでは決してない。

経営者としての一面も

自分の名前で仕事をしていくためには飛び抜けた強みやそれを証明するトロフィーが必要になる。だがバックカントリーの世界において、ターン技術や山を滑るラインの巧拙で大きな注目を集めることは難しい。

冬季五輪が開催されたほどの本場、ソルトレイクシティで生まれ育ったジュリアン。だがスキーを始めたのは中学2年生の頃で、レースやモーグルなどのバックグラウンドがあったわけではない。プロを意識して滑り出したのも大学生になってからと遅めである。しかし、クリフジャンプという自身の強みを極限まで磨きぬき、圧倒的な世界記録を持つジュリアンはプロスキーヤーとして自己のブランドを確立している。

またジュリアンは帽子とアパレルのブランド、ディスクリートの創業者でもあり、さらにトレイルランニングのイベントCirque series(シルク・シリーズ)[3]も主催している。ブランドを育てることにかけては、かなりの手腕の持ち主だ。

アパレルブランド”DISCRETE”
初の代理店獲得から15年。プロスキーヤーの活動と並行して小規模ビジネスを成長させてきた。
https://www.discreteclothing.com/

シルク・シリーズ 2018年ブライトン大会ダイジェスト

[3] 2015年にPeak seriesとしてスタートしたのちCirque seriesに改題。トレイルランニングでは長い距離を走るイベントが多いとされるが、スキー場の山麓から山頂までの往復コースで、短距離かつ大きな標高差が特徴。2020シーズンは新型コロナウィルスの影響でアラスカ大会が延期となったが、残り5戦は感染対策を徹底した上で予定通り開催される。 https://www.cirqueseries.com/


スキーのみならず、起業家やオーガナイザーとしても高い手腕を発揮し、ICELANTICの中でも非常に大きな影響力を持つジュリアン。彼の動向にこれからも目が離せない。

くんさん

より深くジュリアンを知りたい方にはこちらの記事がおすすめ。
ジュリアン・カー 2020/4/30公開最新インタビュー(全編英語)

Cirque seriesについて(全編英語)
[Touring to the Summit Make You Tired? Try Running There.] – POWDER
https://www.powder.com/stories/cirque-series-mountain-running-race/

 

ICEYクラシックス Vol.1 Leigh Powis
https://icelanticskis.jp/4032/

ICEYクラシックス Vol.2 Josh Stack
https://icelanticskis.jp/4145/

 

July 5, 2020/CULTURE/

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